2011年
7月4日(月)
雨
功徳を積みガンダーラへ
雨の中、酔っぱらいが倒れていた。
小柄でやせ形、60くらいのおっさんだ。
水たまりにうつぶせなので全身ずぶ濡れ。
長袖の白いポロシャツと紺色のスラックスは泥まみれになっている。
このまま放っておいたら肺炎になるかもしれない。
駅からの帰宅客が足早に通り過ぎていく中
横にひとり、しゃがみ込んで面倒をみている女がいた。
30くらいのOLだろうか。
右手でおっさんに傘をさしてやり
左手で肩をさすっている。
自分もずぶ濡れになりながら
浮浪者だかアル中だかわからない汚いおっさんを助けるなんて。
そんなの天使かダメ女かボランティアしかいないだろう。
見よ。
濡れて体に張り付いたブラウスはスケスケだ。
はだけた胸元にはツツツと水滴がつたい
しゃがんでいるため腰から下着がハミパンしている。
色はベージュ。
髪型はさらさらのボブで
顔は光浦靖子。
そう、あのミツウラで
フェイスがヤスコ。
ややエラのない光浦だ。
私は彼女に傘をさしてやり、横に座った。
彼女の目はまっ赤に充血していて
吐息は酒臭かった。
「ありがとうございます」と笑った前歯には
青のりか胡麻のようなものが挟まっていた。
今日、会社で飲み会があったとかで
自分も酔っぱらっているし
雨の中倒れているおっさんを見過ごせなかったらしい。
警察に連絡し、巡査が来るまでの10分間
二人で雨に濡れながら
水たまりと同化しかかっているおっさんをさすり続けた。
通りの人はみな見て見ぬふりだった。
カバンの中のPCが雨にやられないか心配だった。
突然、おっさんがうなりだし
水たまりから少し顔を上げた。
ああ、あー。
何か言いたそうだ。
口元に耳を近づける。
あ、あー。
ああーんたたちだ、だれえー。
濁った目をぐるりとさせながらそう言うと
おっさんは勢いよく水たまりの中に顔を沈めた。
ビタン。
そして足をもぞもぞ動かすと
ぶぶぅーっと大きな屁をこいた。
彼女はクククと笑いながら
おっさんの背中をペシペシと叩いている。
殺意がメラッと燃え上がった。
このまま二人とも川に放り込み
家に帰って風呂に入ろう。
ビール飲みながらパスタ作ってテレビでも見よう。
そう思った。
しかしこれは功徳の問題なのだ。
ガンダーラまでの道のりはまだまだ遠い。
私は「警察、遅いですね」と立ち上がり
カバンを抱きしめ派出所まで走った。
0 件のコメント:
コメントを投稿