1月29日(土)
晴
たとえばこんな土曜日の朝
目をさましカーテンをあけると家並みのうえに青空が広がっていた。
冬なのに日差しがあたたかい。
寝具をかたづけ階段をおりると下から朝食の香りが漂ってきた。
コンソメのいい香りだ。
彼女はキッチンにいた。支度中の後ろ姿が見える。
料理の湯気で温かいのだろうか。素足で立っている。
わたしは「オハヨウ」といって彼女の両足に赤いスリッパをはかせた。
彼女も「オハヨウ」といってフライパンがジュゥと音を立てた。
椅子に座りタバコに火をつけ通りに面した窓をひとつ開ける。
レースのカーテンが風にひらめき細長い観葉植物がゆれている。
「あとで水をやろウ」
わたしがちいさな新芽を指でさわっていると彼女が料理を運んできた。
トーストとスープを両手に持っている。
「パンがこげちゃっテ」と彼女はいった。
彼女の顔は朝日に照らされ目も鼻も口もないように見えた。
わたしはパンを手に取り「これくらい大丈夫サ」といった。
こげを落としてから一口かじり彼女のほうを見ると
そこにはやはり目と鼻と口のない女が立っていた。
「さあ食べましょウ」
そういって彼女はわたしのとなりに腰掛けた。
塩の小瓶を持つ彼女の横顔にもやはり目と鼻と口がついていなかった。
わたしはこげたパンを少しと、スープを2回おかわりした。
いろいろな野菜が入ったスープはとてもおいしかった。
食事中彼女はじっとこちらを見つめているようだった。
目がなくてもわたしは彼女の視線を感じることができた。
わたしの気持ちを察したのか彼女は「オイシイ?」と聞いた。
わたしは「オイシイヨ」といい口のない彼女の顔に口づけをした。
顔のない彼女は少しだけ笑ったようだった。
ケケケケケ
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