毎日、しらとりが書いて、まるやまが描くブログです。

2011年1月11日火曜日

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2011年
1月7日(金)





もしも新年会が男2人だったら



夜、言い出しっぺで新年会を開催。

ツイッターやメールで10数名に声をかけたが

定刻に現れたのはまるやまさんだけだった。

朝礼台の上で

不意にパンツを下げられるような羞恥心。

もはやテーブル布巾を握りしめ

キッチンに立ち尽くすことしかできなかった。



「まだみんな仕事中さ」

そう自分に言い聞かせカリフラワーを茹でてみる。

無論おつまみのつもりだ。

白さを出すためにちゃんと酢を入れて茹でた。

だから部屋がちょっと酸っぱくなってしまった。

リビングの方を見ると

自分が酸っぱくなったと勘違いしたまるやまさんが

ソファの上でクンクンしていた。



しかしどういうわけか

まるやまさんは本当に酸っぱくなってしまっていた。

本人は気づいていないようだが

顔面から首、腕から指に至るまで

全身の毛穴という毛穴から

細かい霧状の酢が吹き出しているのだ。

プシュー、プシューと呼吸をするように。

吐き出した糸で繭をつくる蚕のように。



部屋はあっという間に酢の霧に包まれた。

テレビも見えないほどのハードビネガーが立ちこめ

牛乳はたちまちヨーグルトへと変化した。

呼吸をするたびに酢を吸い込んでしまうため

身体はどんどん柔らかくなってしまう。

すでにグニャグニャのクラゲのようで

立っていることすらままならない。



「このままではいけない」

窓を開けようと思い必死で床をにじる。

しかし

にじればにじるほど床にたまった酢に浸かってしまい

浸かれば浸かるほど身体は酢の物と化してしまう。

これでは酢漬けになるのも時間の問題だ。

いったいどうすれば…。



そうだ。アルカリ性だ。

アルカリ性で酢を中和すればいいのだ。

たしか冷蔵庫にオレンジがあったはずだ。

我ながらなんという名案だろう。

化学を勉強してた頃の自分を褒めてあげたい。

まさか義務教育に助けられるとは。

リトマス紙に救われる人生もあるのだ。



むせかえるハードビネガーの中

「アルカリ性、リトマス紙、オレンジ」とマントラを唱え

グニャグニャになった身体を奮い立たす。

冷蔵庫とおぼしき物体を全力で引き倒すと

中身が酢の海へとこぼれ落ちた。

あった。

この丸いのがオレンジに違いない。

こいつを握りつぶし、果汁100%をお見舞いだ。



しかし

酢でグニャグニャになってしまった指先に

まったく力が入らない。

握りつぶすどころか握ることすらできないのだ。

もはやこの指に用はない。

こうなったら直接口で噛み切るまでだ。



酢に浮かぶオレンジに狙いを定め

口を大開放して頭から飛び込む。

口角に確かな手応え。いや歯応え。

最後の力を振り絞り一気に噛みちぎる。



がぶっ

すっぱ!

尋常ではない酸っぱさにもんどりうつ。

とてつもないしっぺ返しだ。

なぜなぜどうして。

果物はアルカリ性なのに。

これで中和されるはずだったのに…。



その時、霧の中からまるやまさんが姿を現し

哀れむような声でこう言った。

「果物はアルカリ性食品だが

果物自体は酸性なのだ。

つまり酸性の反対なのだ」



鈍器で殴られたような衝撃。

もはやまるやまさんを見上げる力も残っていない。

酢の海にばったりとへたり込む。

ああ、この世はなんて酸っぱいんだ。



薄れゆく意識の中

グニャグニャになった自分の手を見つめる。

在りし日の我が手はそこにはなく

爪の間からプシュプシュと

酢の霧が吹き出しているだけだった。









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