3月9日(水)
晴れ
破局の作法
恋人が寝ている間に荷物をまとめ
真夜中のタクシーに乗り込んだ。
あとで追ってこられぬよう
自分の電話番号をこっそり消去した。
借りていた金の領収書は
ぜんぶコルクボードからむしり取ってきた。
抜け目ないトンズラのつもりだった。
束縛が苦しかったのか。
借りてた45万円を踏み倒すためか。
ことの真相はわからない。
わかっているのは
実家や兄妹の連絡先を消し忘れていたため
はやくも事態が泥沼化していることだ。
事実は小説よりも安易であった。
かくのごとく破局したレズビアンカップルに思いを馳せ
3丁目でひとりウーロン杯をあおる。
誰かに話したい気もしたが
誰も話を聞いてくれなかった。
垂れ流しのテレビの中では
アン・ハサウェイが泣いていた。
くる日もくる日も泣いていた。
彼女は自分の兄がゲイだと知ったときも
こんなふうに泣いたのだろうか。
舐めたら桃の味がしそうな
ルルドの涙が光っていた。
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